●死刑判決を破棄しての死刑判決

 「一審・控訴審・上告審いずれも死刑」といえば、一審の死刑判決が控訴審でも是認(控訴棄却)され、さらに上告審でも是認(上告棄却)されたという例がほとんどである。各審級で改めて「死刑判決」が下されているわけではないが、一般に解りやすいよう、報道等では控訴棄却や上告棄却の判決であっても「死刑判決」と書く場合がある。
 だが、稀に一審の死刑判決に誤りがあったとして控訴審で破棄され、改めて死刑判決が言い渡される例がある。事実認定等に誤りはあったが、死刑という量刑は結局変わらないということである。以下に確認できた事例を挙げるが、一審死刑判決に対し敢えて控訴した検察の主張が容れられたものが7件中3件と意外に多い。控訴趣意と無関係に、裁判所が職権で破棄した例もある。

 なお、これらはいずれも現行刑訴法の下で言い渡された判決である。旧刑訴法では控訴審は「覆審制」(事実を一から取り調べる)を採用していたため、控訴審判決は原則として新たに判決を言い渡していたが(死刑事件に関していえば違法な控訴による「控訴棄却」が1件確認されている)、現行刑訴法では「事後審制」(原審の当否を事後的に判断する)を採用しており、破棄自判で同じ量刑を言い渡す事例は少ない。
 上告審での破棄自判による死刑判決は、現行刑訴法下では確認されていない。旧刑訴法下では戦後2件が確認されている。

事例1.1953(昭和28)年12月22日 仙台高裁判決 鈴木信・杉浦三郎・佐藤一・本田昇
 松川事件第一次控訴審判決。一部事実誤認ありとして、原判決破棄の死刑判決。被告人らはいずれも、最終的には無罪確定。

事例2.1952(昭和27)年8月5日 福岡高裁判決 木谷久雄
 一審では有罪とされた強姦罪について、控訴審では無罪。

事例3.1965(昭和40)年8月30日 広島高裁判決 阿藤周平
 八海事件の第三次控訴審判決。第一次控訴審では控訴棄却判決だが、第三次控訴審では破棄自判の死刑判決が言い渡されている。被告人らの八海集合時刻等に関して、第一審判決には事実誤認があったとした。最終的には無罪確定。

事例4.1965(昭和40)年9月15日 東京高裁判決 小林カウ
 「死刑判決に対する検察の控訴」を参照。

事例5.1969(昭和44)年12月17日 東京高裁判決 堀越喜代八
 刑訴法347条第1項(押収した賍物で被害者に還付すべき理由が明らかなものは、これを被害者に還付する言渡をしなければならない)の解釈・適用に誤りがあったとして、職権によって破棄。控訴趣意を容れての破棄ではなく、事実認定とは直接関係ない。
 「被告人が強盗殺人の犯行により強取した郵便貯金通帳により49,900円の払戻しを受けたが、現実には、被告人が郵便局係員に自己の100円を差し出し、引換えに1万円札5枚の払戻しを受け、被告人は右5万円を自己の所持金に混入し、その中から1万円札8枚を他人に贈り同人は右8万円中に被告人が強取した貯金通帳より払戻しを受けた金員の一部が混入していることは全然知らず、右8万円をそのまま任意提出し、これが押収された場合、その中4万円については、強盗殺人の賍物で、その被害者に還付すべき理由が明らかであるとするには疑問がある。」

事例6.1973(昭和48)年7月6日 東京高裁判決 冨山常喜
 一審で有罪とされた殺人未遂事件について、控訴審では無罪。一審死刑判決を破棄した上、殺人事件について改めて死刑判決。

事例7.2001(平成13)年3月27日 大阪高裁判決 鎌田安利
 「死刑判決に対する検察の控訴」を参照。

事例8.2005(平成17)年10月14日 名古屋高裁判決 小林正人
 「死刑判決に対する検察の控訴」を参照。

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